僕たちが日常でつい頼ってしまう先入観について、今日は少し丁寧にひもといてみます。
「先入観って、やっぱり思考のショートカットかもしれない。でも、だからこそ上手に乗りこなしたい」という視点です。
第一印象の落とし穴
よく耳にするのが「第一印象がすべて」というアドバイス。
履歴書の写真や初対面のあいさつで人柄が一瞬で決まる、というあのフレーズです。
たしかに出会い頭の情報はたいへん強烈で、忙しい毎日において判断コストを削減してくれます。
ただし言い切るのは危険です。面接では質疑応答や後日のフォローアップが評価材料になりますし、「第一印象に頼りすぎるな」と教育する企業だって増えています (とはいえ合理的な”面接攻略法”として第一印象を上げるというのは非常に有用なアプローチ)。
ヒューリスティック活用法
心理学でいうヒューリスティック、“認知的省力化”は、単なる手抜きではなく、経験と専門性に裏打ちされた効率的な判断手法でもあります。要は「節電モード=悪」ではなく、使いどころが肝心という話。
この概念の理解がとっても大事。
たとえばスーパーで卵を選ぶとき、賞味期限だけパッと見れば済む、と。
これはリスクが小さい買い物ゆえの“雑に判断しても影響が限定的”なシーンです。
しかし、同じテンポで人間関係やクリエイティブな判断を片づけたらどうでしょう。
回収不能なズレが静かに積み上がり、あとから高い“修正費”を払う羽目になるかもしれません。
舞台稽古を例にしましょう。ある役者さんを「伸びしろがなさそう」と決めつけたとします。
でも伸びしろは、基礎トレーニング歴・体力・声量・メンタル耐性など、多面的に測るべきもの。
一つの所作がたまたま荒かっただけで、「この役者は違う」というレッテルで上書きしてしまい未来の可能性まで狭めたら双方にとって多大な損失です。
仮メモ化
そこで提案したいのが“仮メモ”化。
先入観を「付箋」レベルに格下げし、上書き自由のメモとして頭のポケットに入れておきます。
僕自身、舞台写真の撮影で「このシーンは照明が難しい」と思い込んだ途端、シャッターの回数が減った経験があります。
しかし偶然トライした逆光カットが最終採用に。
要するに「仮メモだから外れてもOK」というマインドセットが、テストショットの枚数を増やし、結果的に成功確率を押し上げるのです。
もちろん、これは一つのエピソードにすぎません。ぜひあなたの環境で積極的にA/Bテストをしてみてほしい。
統計的再現性が得られれば、その方法はあなたの“武器”になります。
捨てる勇気
不要な仮説を捨てる行為は、ジムで筋肉を追い込むのと同じ。
最初は痛み (認知的抵抗)を感じますが、回復期に新しい視野が芽生えます。
言い換えれば、捨てる勇気こそ思考の筋トレ。
最後に、クリティカルシンキング (批判的思考)の出番です。
仮メモに書いた内容を「本当にデータは揃っているか」「対立仮説は存在しないか」と客観視するプロセスが、先入観をツールへと昇華させます。
第一印象でサッと仮説を立てる。十分な材料がそろったら勇気をもって更新する。
その繰り返しが、思考を柔軟に保ち、結果的に判断スピードも高めることに繋がると思うのです。
「最初に決めたけれど、十秒後には違う景色が見えるかも」と思っておくだけでも、世界の解像度が上がります。
この “ゆるい上書き可能メモ” をポケットに入れておいて、常に考え続けることで見える景色もありますからね。
「クリティカルシンキング」という小さな意識を添えるだけで、日常はけっこう面白く書き換わります。
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